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[T117] 「昭和ラプソディ〜いま日本語を考える〜」14:笹田治人

 天声人語を読む  前にも書いたように、満州事変を境にして各新聞の論調は戦争賛美に大きくその舵を切ってゆく。もちろん朝日新聞とて例外ではな...

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「昭和ラプソディ〜いま日本語を考える〜」14:笹田治人

 天声人語を読む

 前にも書いたように、満州事変を境にして各新聞の論調は戦争賛美に大きくその舵を切ってゆく。もちろん朝日新聞とて例外ではない。そんな朝日新聞の昭和12年、1937年、蘆溝橋事件が起き、日中戦争が始まる年の1月1日に掲載された「天声人語」。抑えた論調ながらキラリと光るものがある。筆者はあらゆることに気を配りながら書いたのだろう。そのことが読んでいてヒシヒシと伝わってくる。
 なお、ルビを外したほか、漢字以外は原文のままとした。

 何をもつて年首の辞とすべきか▼千里同風めでたく申納め候とはいひがたい世態が右からも左からも押寄せてゐる▼暴風は内にも外にも吹き荒んでをり、一つ間違へば屋根瓦ぐらゐ吹き飛ばされさうな荒天である▼誰も表面をつくろふことによつて一時的苟安に耽っていいと思ってゐるものはないが、さりとて誰も先頭に出て好んで手傷を負ふまいと考へる▼以心伝心、何とか打開策が考へられながらさてといつて実地には何の打開策も真剣には試みられず、ただジリジリと羽目板に押しつけられてゐるだけの存在ではないか▼この息詰まる空気に助勢するものは、第一に言論抑圧である。六十余項目にわたる記事差止は、国民の眼と耳を掩う証拠品でなくて何であらう▼真実は語れないもの、きかれないものとしてゐる風潮は、たとひ真実を告げても真実とせず、まだその奥に何かひそんでゐるんじゃないかと疑心暗鬼に囚はれる▼どこか国民の耳目に触れぬところで何事かが企まれ、仕組まれてゐるやうな流言蜚語がお互ひの食卓の上へ間断なく放送されて来るといつた現状だ▼その内何もあるわけではない。根も葉もない懐疑的産物に過ぎないのがどのくらゐ現在の日本の明朗性を失ってゐるか知れないのである▼最大の遺憾事は思想上の角逐が漸く日本の各層に露骨な波紋を描き出そうとしてゐることだ▼人民戦線とか国民戦線とかいふのではもとよりないが、その動向について見るときは稀厚のの差があるだけである▼日独防共協定の成立は、今まで曖昧裡にあつたこの種の思想的ギャップを截然と彩色してしまった観がある▼すなはち日独協定に真っ向から反対するものと支持するものとが国内に対立を見に至った▼このことは今後の日本の外交上にも政治上にも将たまた社会事象の上にも必ずや予想以上の重大関係をもたらすといひ得る▼「三七年の危機」は「三六年の危機」に比して一段と内攻された、深刻な内燃性をもったものと思はれる▼屠蘇の元旦に危語を弄する気が知れぬといふかも知れぬが、敢えていふ、非常時日本の展開はこれからであると。

 この元旦の朝日は28ページ建て。この日の主要な記事として◎無条約時代と国民の覚悟 末次信正海軍大将◎チアノ伊外相と語る 前田特派員◎非常時支那を背負う人々 前田特派員などがあげられている。また執筆者には岡本綺堂、石川達三、九鬼周造、村社講平などの名前が見られる。

 しかしそれにしても、という思いがする。あの時代にこの「天声人語」を書いた執筆者に敬意を表したい。
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