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[T135] 「昭和ラプソディ〜いま日本語を考える〜」16:笹田治人

老成の青年歌人・源実朝  今回ご紹介するのは鎌倉幕府三代将軍の源実朝の和歌です。   私が源実朝に関心を抱くようになったのは、作家・太宰治が...

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「昭和ラプソディ〜いま日本語を考える〜」16:笹田治人

老成の青年歌人・源実朝

 今回ご紹介するのは鎌倉幕府三代将軍の源実朝の和歌です。
  私が源実朝に関心を抱くようになったのは、作家・太宰治が戦時中の1943年、昭和18年に発表した長編小説『右大臣実朝』を読んだのがきっかけです。高校二年の冬でした。太宰治が好きで、当時の『八雲版・太宰治全集』などを買い込んで読みあさったものですが、太宰の小説の中では代表作と言われている『人間失格』や『斜陽』より、私はこの『右大臣実朝』の方が好きで、今でもときどき読み返している作品の一つです。
  鎌倉幕府の第三代征夷大将軍・源実朝は「鎌倉殿」または「鎌倉右大臣」とよばれました。鎌倉幕府を開いた源頼朝の子として生まれ、兄の源頼家が追放されると12歳で征夷大将軍に就くことになります。政治は始め執権を務める北条氏などが主に執ったが、成長するにつれ関与を深めてゆきます。武士として初めて右大臣に任ぜられることになりますが、その翌年に鶴岡八幡宮で頼家の子、公暁に襲われ落命します。建保7年、1219年1月。享年26歳。子はおらず、源氏の将軍は実朝で絶えることになりました。

 歌人としても知られ、92首が勅撰和歌集に入集し、小倉百人一首にも選ばれていますし、家集として金槐和歌集があります。その代表的な歌に百人一首に選ばれた。

   世の中は 常にもがもな渚漕ぐ
         海士(あま)の小舟の 綱でかなしも

があります。
 この実朝の歌について正岡子規は『歌よみに与ふる書』の中で
  「實朝といふ人は三十にも足らで、いざこれからといふ処にてあへなき最期を遂げられ誠に残念致し候。あの人をして今十年も活かして置いたならどんなに名歌を沢山残したかも知れ不申候。とにかくに第一流の歌人と存候」と述べています。
 
 実朝が詠んだ有名な和歌には 百人一首の歌のほかにも
 ものいはぬ 四方(よも)の獣 すらだにも
        あはれなるかなや  親の子を思ふ
 時により 過ぐれば民の 嘆きなり
        八大竜王 雨やめたまえ
 などがあります。

  その実朝の和歌を集めた「金槐和歌集」から私が気に入っている幾つかの和歌をご紹介しようと思います。彼が年老いた法師が昔話を物語るのを聞いて詠んだとされる歌です。

 年経(ふ)れば さむき霜夜ぞ 冴えけらし
      頭(かうべ)は山の 雪ならなくに
 頭の白いものは山の雪ではないのだが 年をとると霜夜の寒さがいっそうこたえるらしい
 こんな歌が気になるのは、こちらがそれだけ年をとったからでしょうか。
 われ幾(いく)そ 見し世のことを 思ひ出でつ
        明くるほどなき 夜の寝覚めに
 
明け方もほど近い夜の寝覚のころになると自分がこれまで身を処してきたこの世のさまざまな体験を 幾度思い出すことか
 思ひ出でて 夜はすがらに 音をぞ泣く
      ありしむかしの 世々のふるごと

 その昔の あの時この時の古い記憶が次々と脳裏に浮かんできて 夜通し声をあげて泣いている
 さりともと 思ふものから 日を経ては
       しだいしだいに 弱る悲しさ

 年をとっともまだまだ丈夫だとは思っているものの月日の経過とともに 身体の衰えを思い知らされることが 悲しい
 さらに
 なかなかに 老いは呆れても 忘れなで
           などか昔を いと偲ぶらむ
 
もうすっかり老いて呆けてしまった私なのに なまじ昔の記憶だけが 心を去らずに 懐かしんでいる。一体なんだというのか
 どの和歌もなんとも身につまされる歌です。まだ二十二歳の実朝の歌。彼の精神構造を知りたい思いがします。
 そして私が最も好きな実朝の和歌を最後に
 神といひ 仏といふも 世の中の
        人の心の ほかのものかわ

 まさにその通りだと思いませんか?
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