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「昭和ラプソディ〜いま日本語を考える〜」17

昭和12年の労働争議・奈良の順法闘争
 「順法闘争」という言葉をご記憶だろうか。国鉄労組など交通労働者が編み出したこの優れた闘争方式も、いつの間にか消えてしまった。資本の論理に首どころか頭のてっぺんまで漬かってしまった昨今の労働組合には、もはや労働者の団結の姿すら希薄になり、かって、私たちがかって御用組合と揶揄した存在そのものになりさがってしまった観がある。

 ところで、「国鉄労組など交通労働者が編み出した」と書いた「順法闘争」、最も盛んだったのは1970年代。ストライキ権を奪われた三公社五現業と呼ばれる職場労働者のうち、特に国労の闘争手段として用いられたものだが、この闘争方式が戦前、昭和12年にすでに奈良の交通労働者によって用いられていたことを御存知だろうか。
 昭和12年5月6日、大阪朝日新聞奈良版の記事からご紹介しよう。

 見出しは三本、四段。奈良版トップ記事で全八段
 「定員以上お断り  スピード厳守ののろのろ運転
奈良自動車の怠業」
 この三本の見出しの間に、罫線で囲まれた四段・四行のリードが置かれている。
 「賃金値上問題に絡み四日午前十一時会社側と最終的交渉を行った結果、現下の不況時代における経済自立困難を理由に嘆願を一蹴された大軌(現・近鉄)傍系会社奈良自動車株式会社従業員一同は同夜八時より市内油坂町車庫において従業員大会を開催、代表者から全員に交渉の結果を発表しいよいよ五日の初発から定員運搬、スピード厳守の「自主的安全デー」と称する新戦術のろのろ運転に移った」

 以下本文
  「奈良、桜井、王寺営業所、笠置、八木、法隆寺支所の従業員約二百名は市民並に沿線住民、県下自動車従業員に対し
 『奈良自動車の争議に際し市民並に沿線住民に謹んで御挨拶申上げます。我々は今日まで莫大なる大軌資本の下に働きながら大の男がしかも技術者としての免許證を持ちながら月五十円にも満たない賃金で働いて来ました、私共の苦衷を十分お察し下さい。まして私共が、会社当局に反省を促すために決行致しました「事故なしデー」「安全デー」「親切デー」による皆様の御迷惑不行届に御寛大なる御声援を賜わりたいと思います』
のビラを配布するとともに乗合バス、ハイヤーは一斉に規定された最高スピード三十五キロの半分にも達せない
 十五瓩(キロ)のスピードで走り、乗車場では一々乗客の数を読み定員十三名以上は断って、法規による正当視されたサボタージュを開始した。面食ったのは市民や沿線の住民で唯一の交通機関であるためうっかり平常通りの出勤時間に家を出たサラリーマン達は”お気の毒様でございます。定員は十三名でございますので”との車掌の言葉に口アングリ、やっと来た定員未満の車に乗れたと思うと最高十五キロという牛のようなスピードだ。
  これがため役所や会社でも遅刻遅刻で大弱り、他府県から来た遊覧団体客はサッパリわけが解らずノロリノロリ走る車にも乗れぬ勝ちで恨めし相に見送るばかりだった
 午後からはこの従業員の合法的なサボタージュをやっと納得した市民たちは”頑張れ、負けるな”の檄を飛ばす者も多数見受けられた。この合法的な新戦術のノロノロ運転に移るまでには従業員達は数回会社側と交渉して軽く刎ねられて来たもので、内々不満な空気を漲らせていたところ、たまたま従業員側を支持するごとき文句の投票が舞込んだ結果一時に従業員の団結となったもので現在のところガッチリしたリーダーもなく女車掌の如きはその根本理由も解らぬままサボタージュに追従しているものも多く、ごく平穏な空気のうちにノロノロ運転を行なっているが、時日の経過とともに会社側が如何なる態度に出るかが非常に注目されている。
(以下略)

 この自動車会社の規模は「車両数七十余台、従業員二百五十名、路線延長は県下乗合路線の四割以上」とこの記事は伝えている。
 またこの記事に続いて「県の保安課は成行を静観する」との記事を掲載している。
 とにかく日中戦争が始まる昭和12年、1937年に奈良ではこんな「順法闘争」が行なわれていた。

 ちなみに、記事には「月給五十円」とあるが、このころの物価は新聞購読料が月額90銭、週刊誌15銭となっている。
 社会に何が起ころうと、老人医療費がどうなろうと、惰眠をむさぼったままの昨今の労働組合指導者たちに読ませたい記事の一つではある。
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