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[T76] 日曜日新聞書評欄簡単レビュー :川瀬俊治

 日曜日恒例の日曜書評欄簡単レビューです。朝日、毎日、日経の3紙から紹介しましょう。久しぶりに朝日の書評欄が面白かった。文中敬称略。(続きを...

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日曜書評欄簡単レビュー:川瀬俊治

日曜書評欄簡単レビューです。本日は朝日、毎日、日経の3紙から。久しぶりに朝日の書評欄が面白かった。文中敬称略。
 書評欄紹介のページを担当していると、紹介される新刊が各紙に載る。平野啓一郎『決壊』上・下(新潮社、各1800円)、子安宣邦『「近代の超克」とは何か』ーいずれも朝日ーも、楊逸『時が滲む朝』(文芸春秋、1238円)ー日経ーがそうだ。今回は『時が滲む朝』の書評を紹介する。

 前に出た書評(毎日)は厳しい指摘がなされたが、今回清水良典評者の文は新たな視点を打ち出した。亡命小説という概念だ。楊が来日して書くことができたという内容だというのである。中国では天安門事件をネットで検索 できない。中国の寒村から都会に大学に進学する青年は、北京で急進的な教師に染まり天安門事件での民主化運動にのめり込む。共産党政権と軍により弾圧を受ける。居場所を求め日本に来る。開催が決まった北京オリンピックへの反対署名を始めるが周辺の反応が悪い。評者はこう書く。「夢や理想がまだ熱く信じられた時代の青春から、現代に届けられた直訴状のようである」。たしかに日本でしか書けない亡命小説である。評者が書く。「日本語で書く屈折に、今後の著者がたくましく鍛えられていくことを願う」。

 山本吉宣『国際レジームとガバナンス』(有斐閣、2900円)ー日経ーは70年代国際レジームの研究者の重厚なされた論考である。冷戦時代にはこの国際レジーム(国際関係を統制する規範ルール)の普及は阻まれたのかもしれないが、ポスト冷戦でこそ水を得たのである。国内の政府に当たる権力が存在しないのが国際関係の大きな特徴である。そうした国際社会の制度化が進められてきたかを説く。評者古城佳子は非国家的主体である企業、NGO間にも国際レジームが形成され国際関係にも影響を及ぼしている現在の姿に注目して紹介している。

 リチャード・ルビンジャー『日本人のリテラシー
1600ー1900年』(柏書房、5040円)ー朝日ーはアメリカ屈指の日本教育史研究者による識字力の日本人の近世、近代史なのだ。著者は日記、農書などで読み書き能力が社会階層に広がる過程を描いていく。ここまでは歴史で既に説かれているものだ。著者の真骨頂は識字力が人々を差異化し身分を固定化したことに注目することだ。書評では本書で提示された仮説群としてその内容を紹介していないが(評者耳塚寛明)、問題提起として耳塚は識字力は格差社会の基礎を担っていると指摘する。それは「読み書き能力は学力へと姿を変え、地域や性別ではなく経済的文化的階層による学力差がなお残存し、拡大する兆しを見せる。読み書き能力と同様、学力は地位の差異を固定化する道具として使われる」。現代克服されていない問題を提起している。

 私も存じ上げている辻一郎が『私だけの放送史』(清流出版、1890円)ー毎日ー出した。東京12チャンネルを毎日放送が買収しようとした幻の計画が披露されている。毎日放送の前身は新日本放送。55年に入局した著者は草創期の熱気を本書で伝えている。そこで後輩に「昔には夢があり、志もあった。後輩たちにもっと誇りや自信をもってほしい」と訴えている。著者は毎日放送退職後は大手前大学教授としてメディアについて教え、現在はフリー。草創期の放送人、初代放送部長小谷正一、ラジオ効果音の先駆者和田精などの個性が具体的に描かれた著でもある。

ジェーイン・ジェイコブズ『壊れゆくアメリカ』(日経BP社、1995円)―朝日―は柄谷行人が書評している。何が壊れていこうとしているのかの重要な問題提起をまとめている。それは集団的記憶喪失なのだ。アメリカでロスアンジェルスで路面電車がかつて走っていたとは誰も信じない。「モタリゼーション」が根こそぎ都市や都市の生活を破壊した。そのことに気付かない現代に警告を発しているのが本書なのだ。「暗黒時代が近づいている」という本書の副題は何を意味するか。ローマ帝国滅亡後のゲルマン社会でローマの文化がすぐに忘却された。その事態が現在おこりつつあるというのだ。大學にあっては人文科学分野の切り捨てである。私が学生時代には常識だった文学的知識はいま通じない。柄谷はそのことを指摘しているが、学生の質の問題ではない。集団的記憶喪失を招いているのはグロ−バル資本主義あのだ。著者の警告に耳を傾けたい。
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